溶剤型の水性塗料とエマルション型の水性塗料

素材・道具

ご家庭や趣味で使う、いわゆるホビーユースの水性塗料について、ざっくりと解説したいと思います。

塗料とは色のついた接着剤

絵の具や塗料というのは極端に言えば「色のついた接着剤」です。色の素(もと)になる成分は顔料(がんりょう)と呼ばれる細かい粉が使われることが多いです。顔料はピグメントとも呼ばれます。(ちなみに色の素になる成分を「顕色材(けんしょくざい)」とも呼んだりします。顔料以外の顕色剤としては染料(せんりょう)が挙げられます。)

絵の具の接着剤となる素材は、油が接着剤ならば『油絵具(あぶらえのぐ)』、アラビアゴムが接着剤ならば『水彩絵具(すいさいえのぐ)』、デキストリンならば『ポスターカラー』になります。

絵具の場合、接着成分を展色材(てんしょくざい)と呼びます。展色材はバインダーとも呼ばれます。(ちなみに接着させる成分は「固着材(こちゃくざい)」という呼び方もあります。)

水性塗料として水彩絵具やポスターカラーは手軽なのですが、耐水性がないので絵の具が乾いても水がかかると色が落ちてしまいます。家具の色塗りや模型工作に使う塗料としては不向きと言えるでしょう。乾燥すると耐水性を発揮する水性の塗料としては『水性アクリル塗料』があります。このアクリル塗料(アクリル絵の具)とはどのようなものなのでしょうか?

アクリル塗料とは?

アクリル絵の具とは、接着剤となる成分に「アクリル樹脂」を使っている塗料になります。アクリル樹脂は透明性や耐久性に優れた合成樹脂です。一般的には透明度の高いプラスチックをイメージしてもらえばいいでしょうか。コロナ渦では仕切り板として大活躍した素材ですね。

繊維状にしたアクリル樹脂は洋服の素材としてもよく使われていて、セーターなどに使われることが多いかもしれません。

基本的にアクリル樹脂は水に溶けません。アクリル樹脂は水槽や航空機の窓などにも採用されている素材です。水に溶けるのであれば大変です。

アクリル樹脂を細かく砕いて粉にして水を混ぜても、かき混ぜた直後は水の中で分散した状態になりますが、時間が経過するとアクリルの粉と水に分離してしまいます。どうすればアクリル樹脂を接着剤として利用できるようになるのでしょうか?

アクリル樹脂を接着剤にする4つの方法

完全に個人的な見解なのですが、アクリル絵具は以下の四種類に分類できます。

「非水溶性溶剤型」・「水溶性溶剤型」・「エマルション型」・「水溶化型」の4つです。

アクリル樹脂を有機溶剤で溶かす

アクリル樹脂は水に溶けないので、薬品の力を借りて溶かして接着成分にしてしまおうというのが「『溶剤型』アクリル塗料」になります。有機溶剤(ゆうきようざい)やシンナーと呼ばれる溶剤を使ってアクリル樹脂を溶かします。有機溶剤が揮発・蒸発すると色のついたアクリル樹脂が残り、色の膜である塗膜(とまく)を形成するのが溶剤型アクリル塗料になります。

(なお、シンナーとは「薄め液」を指す言葉なので水性塗料の場合、水もシンナーに該当するのですが、前述のシンナーとは有機溶剤を指しているとして解釈されてください。)

有機溶剤には水に溶けない非水溶性のものと水に溶ける水溶性のものがあります。非水溶性の溶剤型アクリル塗料としては、日本で入手できるホビーユースのものだとGSIクレオス社の「ミスターホビー」シリーズの塗料が代表でしょうか。非水溶性の溶剤型アクリル塗料は『油性アクリル塗料』になります。非水溶性の塗料なので、水洗いできません。筆を洗う場合は専用の洗浄液(薄め液やツールクリーナー)などを使う必要がります。

水溶性の溶剤型アクリル塗料の代表格は、GSIクレオスの「水性ホビーカラー」シリーズでしょうか。(安全データシートなどで確認していないので確証はありませんけど…。おそらく水溶性の有機溶剤を使っていると推測。)乾燥前ならば筆などは水で洗浄可能です。

たまに「ミスターカラー」と「水性ホビーカラー」を混ぜて使っていた…という声を聞くことがありますが、同じ溶剤型の塗料ではあるので、分量によってはそれなりに混色は可能なのかもしれません。おすすめはしませんが…。

溶剤型の欠点

溶剤型の欠点は、引火性や毒性が高いことでしょう。

水性ホビーカラーの場合、消防法の定める『第4類 第2石油類』の危険物に該当します。(ちなみにミスターカラーは『第4類 第1石油類』。)

塗装時は火気厳禁・換気されている環境で、防毒マスクの着用などが望ましいでしょう。

アクリル絵具の主流はエマルション型

アクリル絵の具を使って絵を描く人のことを「アクリリックペインター」と呼びます。プラモデル製作をされる方は「モデラー」と呼ばれます。アクリリックペインターは溶剤型のアクリル塗料には、まったく馴染みがない方がほとんどだと思います。(逆に日本のモデラーは次に紹介する「エマルション型」に馴染みがない方々が多いと思います。)

現在、ホビーユースのアクリル塗料の主流はエマルション型の水性アクリル絵の具なのです。

主に絵を描く用途としては、リキテックス、アムステルダム、ゴールデンアクリリックス、U-35…。トールペイント用の塗料では、セラムコート、アメリカーナ、マーサスチュワートクラフトペイント…。ミニチュアペイントでは、シタデルカラー、ファレホ、アーミーぺインター、コートデアームズ…、などなどの銘柄が思いつきますが、これらはすべてエマルション型の水性アクリル塗料になります。

水と油は相性が悪い

水は油をはじき、油は水をはじきます。仲の悪いことを「水と油」と表現したりしますが、水と油は(そのままでは)混ざり合うことがありません。水に油を入れてかき混ぜても、かき混ぜた直後は水の中で油は分散している状態になりますが、時間の経過とともに水と油は分離します。水と油は、どうすれば混ざり合うのでしょうか?

水と油を仲介する乳化剤

マヨネーズの主な原料は、酢と油と卵黄です。酢に油を入れても混ざり合うことなく、酢と油に分離してしまいます。ところが卵黄を入れて混ぜると、酢と油は分離することなく混ざり合います。これは卵黄は水にも油にも馴染む性質を持っているからです。卵黄は水と握手できる手と、油と握手できる手を持っていて、水と油の仲を取り持ってくれるのです。このような水と油を仲介するものを「乳化剤(にゅうかざい)」と呼びます。マヨネーズの場合は、卵黄が乳化剤になります。

水と握手できる部分を「親水基(しんすいき)」、油と握手できる部分を「疎水基(そすいき)」と言います。(疎水基は「親油基(しんゆき)」とも呼びます。)

エマルションとは?

マヨネーズは乳化剤の力を借りて、水(酢)の中で油が分散している状態を維持しています。この状態を乳化(にゅうか)と呼びます。乳化は「エマルション」とも呼ばれます。

水の中に乳化剤の力を利用して油が分散しているエマルションを「水中油滴型乳化」や「水中油滴型エマルション」と言います。マヨネーズの他に牛乳も水中油滴型エマルションの代表例になります。

もともとエマルション(emulsion)とは、ラテン語の「乳をしぼる」という意味の言葉が語源だそうです。

ちなみに油の中に水が乳化して分散しているのは「油中水滴型エマルション」になります。

油中水滴型エマルションの代表例としてはバターやマーガリンが挙げられます。

アクリル樹脂は水に溶けない・馴染まないと書きましたが、乳化剤の力を借りてアクリル樹脂を水の中で分散して混ざった状態を維持した絵の具が水性エマルション型アクリル絵具になります。マヨネーズは卵黄が乳化剤でしたが、エマルション型の水性アクリル塗料では界面活性剤(かいめんかっせいざい)が乳化剤になります。

水が蒸発すると色のついたアクリル樹脂が残って塗膜を形成します。いったん乾燥してしまうと、アクリル樹脂は水に溶けることはないので耐水性になります。

同じアクリル塗料でも、溶剤型の塗料とエマルション型の塗料では組成がまったく異なります。溶剤型の水性アクリル塗料と混ぜるとエマルションの構造が崩れてしまうので、溶剤型の水性アクリル塗料との混色は不可です。

プラモデル用の塗料だと、GSIクレオスの「アクリジョン」シリーズが、このエマルション型のアクリル塗料になります。(アクリジョンには少量の有機溶剤も含まれているようですが…。)

引火性もなく毒性も低いエマルション型アクリル塗料

世界的に水性アクリル塗料の主流がエマルション型になった理由としては、さまざまな理由があると思いますが、やはり安全性の高さも要因ではないでしょうか。引火性もなく毒性も低いので、室内での筆塗りも安心して利用できます。(安全性の高さを表すAPマークなどの話は別の機会に解説します。)

海外では溶剤の排出規制や製品の安全基準が厳しいので、溶剤を使用しない水性塗料の需要は大きく、日本でも塗料の水性化はこれからもっと進んでいくと思われます。

寒さには注意!

余談ですが、エマルション型の塗料や接着剤は寒さに弱いです。冷却が進むとエマルションの構造が崩れてしまい、成分が分離してしまいます。分離すると塗料や接着剤として性能を発揮することができません。たとえばマヨネーズも0℃以下になると分離してしまい元に戻らなくなります。

凍結防止剤が添加されているアクリル絵の具もありますが、気温の低い場所での保管はやめておきましょう。

あと、寒さだけでなく暑さにも弱いので高温にならないように注意しましょう。

水溶化型のアクリル絵の具

さんざんアクリル樹脂は水に溶けないと書いてきたのですが、実は水に溶けるように設計された「水溶性アクリル樹脂」があります。水溶性アクリル樹脂は、アクリルインクに採用されています。引火性もなく毒性の低い水性塗料で、乾くと耐水性を発揮します。このタイプは、エマルション型の水性アクリル塗料と混色が可能です。

まとめ

  1. 水性塗料には「水彩絵の具」、「ポスターカラー」、「水性アクリル絵の具」などがある
  2. アクリル塗料には「油性」と「水性」がある
  3. アクリル塗料は「溶剤型」や「エマルション型」など複数のタイプがある
  4. アクリル塗料の世界的な潮流は「エマルション型」

ざっくりと上記の項目をおぼえていただければ…。塗料に関しては以下のような記事も書いています。

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