カドミウムフリーの絵の具とは「水銀を含まない絵の具」ではない

解説

インターネット上で「カドミウムフリーの絵の具とは、水銀を含まない絵の具のことです。」というような言説を見かけました。結論から書くと、カドミウムフリーの絵の具とは有害物質の「カドミウム」を含まない絵の具のことです。(もともと水銀が使われていないので、水銀を含まないという記述も嘘ではありませんけど…。)

以前は水銀を使用していて、今は水銀が入っていない絵の具なら、そのまま「水銀フリー」、「マーキュリーフリー」や「クイックシルバーフリー」という表記になりそうです。マーキュリーは天文学的には「水星」を指しますが、化学用語だと「水銀」。水銀の英名は、マーキュリー以外にクイックシルバーという呼び方もしたりするようです。個人的に現代のアクリル絵の具で、水銀(PR106)が入っている絵具は知りません。(水銀を含む現役の塗料と言えば、日本画の岩絵の具が代表格でしょうか。)

そもそもカドミウムと水銀はまったく違う物質です。カドミウムの元素記号は「Cd」、原子番号は「48」です。水銀の元素記号は「Hg」、原子番号は「80」です。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Periodic_Table_Armtuk3.svg

カドミウムは塗料の色のもとになる「顔料(がんりょう)」の1種としてポピュラーではありますが、一般的に身近なカドミウムといえば「ニッケル・カドミウム電池」でしょうか。通称「ニッカド電池」もしくは「ニカド電池」。

現在のバッテリー製品といえば、「リチウムイオン電池」が主流ですが、ひと昔前は「ニッカド電池」がポピュラーな存在でした。バッテリー駆動の電動工具や昔の携帯電話の電源として活躍していました。

カドミウムの有害性を示す代表例は、日本四大公害の1つである富山県の神通川流域で発生した「イタイイタイ病」が有名でしょう。

イタイイタイ病とは

金属でありながら常温で唯一の液体である水銀の身近な例といえば、水銀体温計が代表格でしょうか。ただし、水銀を利用した血圧計や体温計は、2021年より製造や輸出入が水俣条約と水銀汚染防止法等により禁止となっており、今後は見かけなくなる製品になりそうです。

「水銀フリー」の流れは古くからあり、例を挙げると消毒剤への使用は1973年に禁止、1974年には農薬や化粧品への使用禁止、乾電池への水銀使用は1992年に禁止されています。ただボタン電池などには、今も微量の水銀を含む製品が存在します。無水銀の電池の場合は、以下のようにパッケージに「0%Hg」や「水銀0%」の表記があります。

このような表記のない場合は、廃棄時に注意しましょう。(廃棄に関してのルールは、お住まいの各自治体へ確認ください。)

絵の具の顔料としての水銀は、水銀のなかでも比較的に毒性の低いとされる「硫化水銀」になります。顔料としての硫化水銀は歴史が古く、朱色の顔料として神社の鳥居の塗装などに使われていました。

水銀の有害性を示す代表例は、日本四大公害の熊本県で発生した「水俣病」と新潟県で発生した「第二水俣病」でしょう。

水俣病と水銀について|水俣病とは
水俣病の発生及びその概要と水俣病が起こった社会的背景について解説いたします。

絵の具の顔料としての水銀(硫化水銀)は、毒性もさることながら非常に希少で高価な顔料なので、一般的な家庭用絵具では使用されない顔料になっています。本物のウルトラマリン(ラピスラズリ)やターコイズなどの宝石を原料にした絵の具と同じように、より安価な代替顔料が使用されています。

その代替顔料の1つにカドミウムが挙げられるのですが、そのカドミウムも有害性の問題により、カドミウムを使わない「カドミウムフリー」の塗料が近年は主流になりつつあります。

アクリル絵具だと2017年にリキテックスからカドミウムフリーシリーズが登場しています。

2018年にはソフト(絵の具の練りが柔らかい)タイプもカドミウムフリーが登場。

2019年にはウィンザー&ニュートンからカドミウムフリーが登場。

ちなみに油絵具だと、ルフランから2018年に世界初のカドミウムフリーの油絵具が登場しています。

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